四十年前のお盆

 

 

“ポ〜ン”

家族で乗っているタクシーが砂利道でパンクした。

 

「ごめんな〜い。どうにもなんねない。」

運転手は諦め顔で父に言った。

 

「んじゃあ...こっから歩いで行ぐべ。」

ここから、祖父母の家まで

歩いていけない距離じゃない。

 

 

 

うちの周りも果樹園が多いけど、 

祖父母の家の周りは、

ほぼ果樹園と田んぼのみ。

お盆の頃は 梨畑からのアブラゼミの

鳴き声で話し声がかき消されるぐらいだ。

 

そんな中を歩いて一時間。

少し疲れたぐらいで到着。

  

 

 

大きなクヌギの木の脇にある

薄暗い門から家の庭へ入っていく。

  

すると、鶏頭の花が紅く鮮やかに

出迎えた。そこにアゲハ蝶がヒラヒラと

呑気に飛んでいる。

 

(何だか、おばあちゃんち・・極楽っぽい。)

なんて思いながら、

かぶっていた野球帽を虫網にして

蝶を少し追ってみたが

捕まえられるわけがなく・・

  

 

 

親戚との挨拶を済ませて

仏壇に線香に火をつける。

そして・・合掌。

 

その後は、じっとしていられず、

出された御馳走もそこそこに

久しぶりの従兄弟と外へ。

 

鶏頭やヒマワリの他に逞しいオレンジ色

のオニユリも咲いている。

そこに真っ黒だけど少し玉虫色の

“カラスアゲハ”が、品よく舞っていた。

  

 

 

(やっぱり王様だなあ。)

しばらく敬意を持って眺める。

 

 

そんな“四十年前のお盆”の記憶。