本当に描きたい絵?

 


「描きたいことがあって絵を描いているのに、

 見る人を気にしたり、アドバイスを受けたり、

 だんだん、自分が本当に描きたい絵なのか、

 わからなくなるんです。

 先生もそんな事ありますか?」

 

 たぶん、こんな質問だったかなあ。

 一年に一回美大の講評会に呼ばれている。

 寒いけれど空気が澄んだ穏やかな日だった。



 


  二時間以上の講評終わり際の質問。

  素直に思いつくまま答えてみた。

 

 「う〜ん、二十代や三十代の頃、考えたことが

  あるなあ・・。でも、四十を過ぎたぐらいから・・

  そんな事、ど〜でも良くなっちゃった。

  何でだろう・・長年、絵を描いてると

  描く自分の気持ちとかより、絵を描いて、

  見る人と共鳴してもらえる奇跡が嬉しくてねえ。」


  質問に対してピントが少し外れた

  こ〜んな答えをした。

   

  “共鳴が嬉しくて絵を描いている。”を

  学生さんの質問で、僕の口から出てきた

  ことに自分で驚いたりして・・




 

  次の日の朝、海苔もちを食べながら、

  自分が話した事を思い出そうとしたけど、

  感覚的に話したせいか、ほとんど記憶にない。

  

 (何だか、楽しかったな・・みんなはどうだったろう?)

  

  そう思いながら、少し冷めたコーヒーを

  口に運んだ。