少しだけ寒い日だったと思う。
もうすぐ午後三時、
近所に住む義理の母から電話がくる。
「正機さん、東北が大変なことに。」
その電話が終わるか終わらないかのうちに
グラグラグラ・・遠く離れた名古屋でも
強い横揺れ、そして長いのだ。
(東海でも・・こんなに。東北はいったい・・)
胸騒ぎがした。
慌てて福島の母に連絡しようと受話器を持つ。
(通じてくれ・・頼む!頼む!)
願いが通じたのか、意外にもすぐ繋がった。
「無事がい?」と言う僕の言葉を聞き終わらないうちに
母はいつもより低く少し震えた声で
「何どが・・大丈夫だげど・・いや〜・・すごい。
まだ揺れでる。電気もすべて止まっだ・・何もかも落ちた。
こんなの・・経験したごどねえ・・いや〜・・こわい。」
母は父が病気の時ですら弱音を吐かない気丈。
そのせいか、とんでも無いことが起きたかが
母の動揺で伝わってくる。
不安で不安でどうしようもなかったが、電話によって
すぐ母の無事が確認でき、少しは冷静になれた。
(これ、母がまだ黒電話だから通じたんだろうな・・)
福島は地震発生直後より停電。携帯もダメ
プッシュフォンもダメだったらしい。
実家の黒電話は、四十年前に
初めて繋がった電話器から変わっていない。
小学三年の秋だったが・・・
その日は嬉しくって何度も何度も
外から用もないのに掛けた。
最強のホットラインになってくれた黒電話。
感謝しても仕切れない。
あれから五年、明日は東日本大震災の日。